大切な人
青い空の下で今日も元気よく一人の青年が漁をするために海へと出る。ボートを必死に漕ぎながら、青年は真っ青な海を見つめる。漁に出るのはこれが初めてではなく青年は手馴れた手つきでボートを漕ぐ。もうアルニ村の桟橋が見えなくなってから随分と時間が経った。 漕いでいたオールを船の上に置き、青年は頭に巻いてる赤いバンダナを取った。 「よし!」 気合を入れるため自分の頬を軽く叩く。 「今日は一段とやる気満々だな、セルジュ?」 一緒に船に乗ってる男性が青年、セルジュの方を見て言った。 「うん…まぁね。今日は大切な人と会える日だからたくさん魚を捕って、食べさせてあげたいんだ…」 「大切な人?」 「うん…僕にとってすっごく大切な人…」 赤いバンダナをぎゅっと握り締め、一年前のことを思い出す。 「…君は?」 オパーサの浜に立っている白い帽子に白いワンピースを身に包んだ女性を見てセルジュの頬が赤く染まる。 「…ここで人を待ってるの…」 「人?誰を待ってるの?」 「あなたを…待っていた。久しぶり、セルジュ…と言っても私のこと覚えてないよね?」 最後の言葉は言いにくそうに言うと女性は悲しそうな笑みを浮かべる。 「…覚えてるよ…キッド」 「え?」 「また、会えたね」 嬉しそうに話すセルジュにキッドはただ呆然とセルジュを見つめる。 「え?え?な、なんで、オレのこと覚えてるんだ!?」 てっきりセルジュはキッドのことを忘れてると思っていたのだが現実は違った。どういう訳かセルジュはキッドのことを覚えている。 「なんでって言われてもね〜。覚えてるものは覚えてるんだよ、キッド?」 「……なんか……違う…?」 「じゃあ聞くけどキッドのことを忘れていた方が嬉しかった?」 「!?」 その一言を聞いてキッドは一瞬怒った顔をしたがすぐにその表情は消え、下に俯いてしまった。 「キッド…?」 「…そんなこと…言うなよ…。嬉しくない…そんな事…。むしろ…オレのこと、覚えていてくれて嬉しいよ…」 下に俯いてるキッドの顔は見えないが身体が震えてるのを見てセルジュは慌ててキッドを抱き締める。 「ご、ごめん、キッド!嫌なこと…言って…。僕もキッドと同じ気持ちだよ…」 キッドの頭を優しく撫でながらセルジュは言葉を続けた。 「また…君と出会えて嬉しい…」 「…セルジュ…」 頭を撫でるセルジュの手をそっと触り、キッドは上を見上げた。 すっかりキッドよりでかくなったセルジュ。大きくなってあの時のセルジュと少し変わってしまってるが中身は全然変わっていなかった。優しいセルジュのまま。それが少し嬉しくてキッドはにこっと微笑んだ。 「…キッド…」 ゆっくりとセルジュの手がキッドの頬に触れる。首を傾げるキッドを見てセルジュは苦笑を浮かべるがそのままキッドの顎を掴み、軽く口付ける。 唇を離した時、キッドの顔は真っ赤な顔で呆然と立っていた。 「おーい、キッド?」 キッドの目の前に手を振り、セルジュは照れくさそうにキッドの名を呼んだ。 「……」 はっと我に返り、キッドは恥ずかしそうに両手で頬を隠す。 「…キッド…」 名前を呼ばれて恐る恐るとキッドはセルジュの顔を見る。まだ頬に赤みが残ってるキッドを見てセルジュの顔が思わず緩みそうになったがなんとか堪える。 「…これからずっと…一緒にいてくれない?」 そう言い終えるとセルジュは少し恥ずかしそうに頬を染める。 「……」 その答えをキッドはすぐに答えられなかった。 「キッド?」 「……ごめん」 か細い声で謝るキッドにセルジュは何で謝るのか分からなかった。いや分かりたくなかった。 「え…?」 「か、勘違いしないでね!セルジュがさっき言った事…すごく嬉しい。でも…もう少しだけ待って欲しいの。まだ…やり残した事があるの…。それが終わったら…ここにまた、戻ってくるから…。それまで待って欲しいの…」 必死に訴えるキッドにセルジュはほっと息を吐く。 「分かった…。待つよ…」 「ありがとう…。一年後の今日、またここに戻ってくるから…」 そう言い終えるとキッドは小指をセルジュの目の前に差し出す。 「うん…」 頷きセルジュも小指を出し、キッドと指切りをした…。 あれから、一年。今日がその約束の日。 外した赤いバンダナを見てセルジュはそのバンダナポケットに突っ込み、海へと飛び込んだ。 数時間後、そこそこ魚を釣ってからセルジュは少し早いがアルニ村へと戻った。 釣れた魚をマージに渡し、家に出ようとしたが忘れ物を思い出し、慌てて自分の部屋に行く。机の上に置いてある小さな小箱を手に取り、家を出た。 早足で『大切な人』を迎えに行くため、オパーサの浜へと向かった…。 fin
後書き ここまで読んでくださってありがとうございます!最後の投稿小説です。 ぎりぎりになって投稿してすみません、隊長…(汗) 下手くそさ倍増(苦笑)しかも話しがすっごい変わってるし…。 本当はレナが出てギャグになる予定でしたがやめました。最後なのでシリアスでいこうと思い、シリアスにしました。 なんか…中途半端な終わり方ですね…。すみません、すみません(大汗) セルジュが最後、小さな小箱を持っていった中身は皆さんのご想像に任せます。 |