いつか会いに行くからさ… いつかきっと… きっと…… 海が静かに凪いでいる。風は微風。空にはかもめが飛んでいる。 ばしゃっ 海の静けさがやぶれた。 「っぷは!!」 青髪の少年が海からひょいっと顔を出した。少年は海から上がると砂浜に腰をかけタオルで顔をふいた。 海はまた静かになった。少年はぼーっと海を見つめていた。すると後から聞きなれた声が響いて少年は我に返った。 「やだー、こんな所にいたのねセルジュ。おばさん探してたわよ、仕事はやらないし毎日ぼーっとしてるし。」 後ろにいたのは幼なじみのレナ。腰に手を当てて不機嫌そうだった。 「……レナ。」 セルジュと呼ばれた少年は少し安堵した表情を浮かべた。 「なによー、わたしがここにいちゃいけない?」 レナは少しふくれっつらをして腕を組んだ。 「ううん、そうじゃないんだ。」 セルジュは思いっきり首を横に振った。セルジュが必死になって誤解を解こうとしている姿をみてレナは少し笑ってしまった。 「なにしてたの、ここで?」 レナはセルジュの横に腰掛けた。 「……特に何もしてなかった。」 「でもこのごろセルジュ変よ。毎日毎日オパーサの浜にきて、おばさんに何かいわれてもぼーっとしてるだけだし。」 波音が耳につく。かもめは相変わらず空を飛んでいる。 「もう帰ろうか、日がかたむいてきた。」 「んもう、そうやって話をそらす。…まあいいけど帰りましょ。私、まだ仕事残ってるのよね。」 「サボって僕の事探してたの?」 「何いってんのよ、仕事のうちなのよセルジュを探す事。」 「ごめんね、仕事増やしちゃって。」 「まったくよ。さあ、反省してるのならかえって仕事を手伝って。」 「え……」 「いやだっていうのね、せっかく探してあげたのに」 「わかったわかった、手伝うから。」 セルジュたちはアルニ村にかえった。 「セルジュッ、なにやってんのあんたは。レナちゃんに迷惑かけて。ごめんねレナちゃん。仕事大変なのに。」 「いいんですよ、おばさん。これからセルジュに手伝ってもらいますんで。」 「さあさあ早く手伝ってあげなさい。あんたはまったく。」 セルジュの母マージはセルジュを一発グーで殴るとさっさと家の中にはいってしまった。 「さあ、セルジュはこれからお手伝い。まず子供たちをさがしにいってきて、家に帰したら村長さんのところにいって。」 「?村長さん?なんで?」 「さっき呼んでたのよ、ラディウスさん。用があるんですって。」 「ふーん、じゃあとりあえず子供探しにいってくる。」 セルジュはバンダナを巻き直しトカゲ岩に向かった。 セルジュ…会いたい… 「村長っ、今帰りました。」 セルジュは村長ラディウスの前に座った。 「おお、やっときおったか。このごろ仕事を怠けておるんじゃと?レナに悪いぞ。」 「はあ…。」 「まあ、本題に入ろうかの。セルジュ、おまえは何になりたいんじゃ?」 「…まだきめてません。」 「もうお前は17になるじゃろ。そろそろ村を出なさい。お前はむかしっから探検するのが好きじゃたろ。」 「!?」 「大陸のほうにわたってみてもいいじゃろ。お前はもう大人なんじゃ。」 「はい、覚悟はできていました。」 「次の満月の夜、この村を出なさい。あさってじゃな。いろいろ思い残す事もあるじゃろうからやりたいことは今のうちにやっておきなさい。」 「はい…今までありがとうございました。」 「たまには顔を見せにきなさい。レナも喜ぶじゃろう。」 セルジュは村長の家を出た。とうとう来た。旅だちの日が。 次の日の朝、セルジュは旅だちの準備をし始めた。出発は明日の夜。 「あれ?貯金箱の鍵がないや。」 セルジュはポケットに手を突っ込んだ。すると何かに指が触った。取り出してみるとそれはお守りだった。星色のお守り袋。 「返さなきゃな、これ。あずかったままだ。」 セルジュはそのままポケットにいれておいた。これをなくすわけにはいかない。自分とあの子をむすぶ唯一のものなんだから。思い出が詰まっている大切な。 「セルジュ、セルジュッたら。」 レナがセルジュのもとへいったとき、セルジュはうつ伏せて寝ていた。 「…ふあ?……レナァ……どうしたの?」 「どうしたのじゃないでしょ。またオパーサの浜にきて。しかも砂浜でねてるし。どっこさがしてもいないもの。またここだろうとおもって。」 「もうレナもわかってきたね。」 今日はかもめが飛んでいない。でも海は静かだ。 「……セルジュ、いっちゃうんだね。ごめんね、きのうきいちゃった。」 「しられちゃったか…。明日の夜、いくよ。」 「それでね、セルジュ。渡したいものがあるんだ。」 そういうとレナはポケットから何かを取り出してセルジュに差し出した。 「これ、僕が集めたコドモオオトカゲの鱗のネックレス」 「2個作っておいたんだ。セルジュにあげたくて。だから、もっていって。」 「……レナ」 「絶対帰って来てね。」 レナはそう言い残して去ってしまった。気のせいか、目には光っているものが見えた。 次の日、セルジュは珍しく家の手伝いをした。今まで住んでいた家。いざはなれるとなるとすこしさみしい。 夜セルジュは家を出た。 「母さん今までありがとう」 という書き置きを残して。 セルジュはまずオパーサの浜へ向かった。夜の海。恐い気もするが、海の偉大さも感じる。セルジュは荷物を砂浜において海へ入った。危険な事は分かっていた。しかし触れてみたかった。偉大な海に。 海にぷかぷか浮いてみると月が見えた。一つは白い月、一つは赤い月。 海に潜ってみると昼間の海と違って深い青の世界がひろがっていた。 海の底に何か見えた。 赤い。 (凍てついた炎?) するといきなりいきがくるしくなった。急いで水面へ戻った。 「っぷは!!」 砂浜にあがるとセルジュは倒れ込んだ。 「はあっ………ふー」 セルジュはそっと目を閉じた。 脳裏をよぎるあの日の光景。 あの子が立っている、会いたい、会いたい。 名前は……… いつかあいにいくからさ…… いつかきっと…… きっと…… 「キッド…まだこないのかよ、あいたいよ…。」 久しぶりに弱気になった。目から宝石のような涙が流れ出る。セルジュは腕で目を覆い隠した。 「………セルジュ?」 声。懐かしい声。 「セルジュ?」 セルジュは起き上がった。 「キッド………?」 「セルジュ?ほんとにセルジュか?」 白いワンピース。本当にきれいなワンピース。 「キッド!!」 「セルジュ!!」 赤いリボンが翻す。 「あいたかったんだよ…」 セルジュはキッドを強く抱きしめる。 「いったじゃないか、いつかきっと会いにくるからさって…」 キッドもセルジュを抱きしめる。 「そうだ、おまもり…。」 セルジュはポケットから星色のお守り袋を取り出す。 「ありがと…セルジュ…。」 物語は終わったわけじゃない。 これから人が生きていくかぎり終わらない。 どんなことがあっても 生きて……… Fin |